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バレエ《海賊》のあらすじと解説~メドーラのヴァリエーションが複数ある理由~

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バレエ《海賊》は人気演目の1つで現在も世界中の劇場で上演されています。

長い間親しまれてきた名作ですが、現在上演されているスタイルになるまでには度重なる改定と、6人の作曲家による加筆もある珍しい作品です。

初演の1956年から現在のプティパ版になる1899年まで変えられ続けているんです。

バレエ《海賊》のあらすじ

第1幕

舞台は中世のギリシャに面した地中海のイオニア海。

コンラッド率いる海賊船が難破し海辺に打ち上げられ、そこを通りかかったメドゥーラギュルナーラが海賊達を救い出します。

そこでコンラッドとメドゥーラは一瞬で恋に落ちます。

 

しかしメドゥーラ達はトルコ軍に捕られてしまい、奴隷商人ランケデムに引き渡されてしまいます。

この動画ではマラーホフがランケデム役で出演しています。豪華…。

2人は奴隷市場に引き渡されてしまい、ギュルナーラはすぐにトルコ総督のパシャに買われますが

メドゥーラが競売にかけられた時コンラッドたちがメドゥーラと他の女性奴隷を連れ去ります。

第2幕

メドゥーラとギュルナーラを取り取り返した海賊達は洞窟で祝宴を上げ

臣下(奴隷)のアリが場を盛り上げるために踊ります。

女性奴隷たちが自分たちを解放してくれと懇願し、コンラッドは仲間たちに解放しようと提案しますが海賊達をそれを拒否します。

コンラッドはそれを押し切って奴隷を解放したことで海賊達の反感を買い、捕まっていた奴隷商人ランケデムと協力しコンラッドに罠を仕掛けます。

 

罠にはまったコンラッドが昏睡している間にランケデムはメドゥーラをさらいます。

第3幕

トルコ総督のパシャは奴隷のハーレムの花園を持っていて、そこで女性たちを踊らせています。パシャはギュルナーラには満足しているものの他の女性は不満に思っていました。

そこへランケデムがメドゥーラを連れて現れ、パシャを彼女を即買い取ります。

メドゥーラに着替えさせている間にパシャはうたたねをしてしまいます。

夢の中では女性たちが花輪を持って花園で優雅に踊っています。このシーンが有名な”花園”

そのハーレムへ僧侶に変装したコンラッドとアリが潜入し2人を救い出し、船で逃げます。

その後嵐に遭いコンラッドとメドゥーラだけが助かる、という版と

そのままみんなで海に漕ぎ出していく

という版があります。

 

 《海賊》に衣装が二通りある理由

 海賊の初演は1856年なので眠れる森の美女の初演よりも30年以上前。

まだロマンティックバレエ全盛の時代なのに、なぜ《海賊》はチュチュも踊りもクラシックバレエの形式なのでしょうか?

 

初演後度も改訂され続け、現行は1899年のプティパ版だからです。

 

プティパはクラシックバレエの礎を築いた人物で、眠れる森の美女を機にバレエのスタイルそのものを大きく変えました。

バレエ《眠れる森の美女》あらすじと楽曲解説~交響曲的なバレエ音楽とプティパとの初の共作~

 

現在もロマンティックバレエのようなクラシックチュチュではない衣装を使っているバレエ団もあります。

それは改訂され続ける過程で2つのスタイルの演出が存在したからなんですね。

海賊は4人の作曲家の曲が追加された

海賊は《ジゼル》も作曲したアドルフ・アダンが作曲していますが、プティパ版ではさらに4人のバレエ音楽の大御所作曲家の曲が追加されています。

 

チェーザレ・プーニ(代表作:エスメラルダ、ファラオの娘)

レオ・ドリーブ(代表作:コッペリア、シルビア)

レオン・ミンクス(代表作:ドン・キホーテ、パキータ、ラ・バヤデール)

リッカルド・ドリゴ(代表作:タリスマン、フローラの目覚め)

 アントワーヌ・シモン

オルデンブルク公爵

 

この時代を作った作曲家たちですね。

プーニが《海賊》に追加した曲

第1幕のメドーラが登場した直後のヴァリエーション。

第2幕のグラン・パ・ド・ドゥはドリゴ作曲

 

最も有名なグラン・パ・ド・ドゥは《タリスマン》の作曲者であるリッカルド・ドリゴです。

 ドリゴについてはこちら↓

www.balletmusique.info

海賊のメドーラのヴァリエーションが何種類もある理由

メドーラのヴァリエーションはバレエ団によって曲が違います。

それは改訂されていく中で他作品から曲を使ったり、曲と振付をそのまま使ったりととても自由だったためです。

海賊で使われているミンクスの楽曲

ラ・バヤデールの「ガムザッティ」の曲を使っていますもの

パキータの男性ヴァリエーションの曲を使っているもの

ちなみにこれがパキータです

これはドン・キホーテ(キトリの友人)でもパキータでも使われています

ミンクスの曲は様々な作品でも使われているわけですね。

複数の作曲家が書いても違和感がない理由

バレエ《海賊》はこうして総勢7人の作曲家によってつくられているわけですが

違和感を覚える人は多くないと思います。

イタリア、フランス、ドイツの作曲の曲があったらそれぞれに強い個性が現れてしまいそうですが

それがどの曲も似たような雰囲気になっている理由は

 

当時のバレエ音楽はあくまで踊るための音楽だったから

です。

 

踊りやすいリズムや曲調、音楽はあくまでもバレエの付随的な、伴奏の役割でした。

 

こうした流れの中で、この後バレエはどんどん衰退してしまいチャイコフスキーとプティパが共作するまでは芸術としての位を低くされてしまったのです。

 

チャイコフスキーは眠れる森の美女を作曲した際に手紙で

「なぜ『バレエ音楽』が付随的なものとして蔑まれるのか全く理解できない!音楽が立派であれば、ダンサーがそれに合わせて踊ろうと踊るまいと、その音楽にどのような違いが生じるのだろうか?」

と語っています。

 

海賊の中にいきなり花のワルツや白鳥の湖のメロディーが入ってきたらとても違和感がありますよね。

 

プティパによる改訂

毎回登場するカリスマ振付家のプティパはこの作品も後世に残るものへ素晴らしい改訂をしました。

物語の内容にあったクラシックバレエのスタイルで人気作となったわけですね。

このように曲も変えて振り付けも変えてを何十年も繰り返しても作品がなくならなかったのは盛り上がりのあるストーリー展開やキャラクターのおかげかもしれません。

 

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