とてもよく上演され親しまれているバレエ《コッペリア》は1870年にパリ・オペラ座で初演された
最後のロマンティックバレエと言われる作品です。
コッペリアという人形に恋してしまったフランツとその恋人のスワニルダ、人形を作ったコッペリウス博士が起こす騒動がコミカルに描かれた作品です。
場面に合わせた多様な音楽があり、《 機械仕掛けの人形の音楽》という場面のピッコロはフルート奏者のオーケストラのオーディションに出題されることもあります。
バレエ《コッペリア》のあらすじ
第一幕
舞台はポーランドの農村。
村の青年フランツと村娘スワニルダは婚約中でしたが
フランツはコッペリウス博士の家の窓辺でいつも読書にふけるミステリアスな少女が気になっていました。
このかわいらしい少女コッペリアは博士が作った人形でしたが、村人はそれを知りません。
ある時スワニルダはフランツの浮気心に気が付き2人は喧嘩してしまいます。
第2幕
スワニルダと友人たちは偶然コッペリウス博士が鍵を落としたのを発見し、好奇心から家に忍び込みます。
薄暗い部屋には様々な人形が並べられており、そこでコッペリアが人形だということにも気づきます。
その時コッペリウスが帰宅し、友人たちは怒られて追い出されてしまいますが
スワニルダだけは隠れることに成功します。
そこへフランツもコッペリアに会いたくてハシゴを使って窓から家に忍び込みますが
すぐにコッペリウスに見つかってしまいます。
コッペリウスは怒りますがすぐに追い出しはせず
フランツに睡眠薬入りのワインを飲ませ、酔った彼から命を抜き取りコッペリアに吹き込もうとします。
それを見ていたスワニルダはフランツを救うためコッペリアの振りをして博士に悪戯の限りを尽くします。(コッペリアとスワニルダはそっくりな外見)
その大騒ぎにフランツも目を覚ましコッペリアが人形だったと知り、
助けてくれたスワニルダと仲直りします。
この動画の中のピッコロソロがよくオーディションにでます。
第3幕
村の祭り。仲直りしたフランツとスワニルダは結婚し賑やかな祝宴がひらかれています。
そこへ激怒したコッペリウスが怒鳴り込んできますが、2人の謝罪と村長のとりなしで機嫌を直し2人を祝福します。
祝宴では平和や時をテーマとした様々な踊りが踊られ、最後はギャロップで幕を閉じます。
最後のロマンティックバレエ
コッペリアは最後のロマンティックバレエと呼ばれる作品で、ロマンティックバレエのスタイルです。
クラシックバレエとは違うスカート型の衣装、超絶技巧がたくさん盛り込まれているというわけではなく
バレエの技巧+演技というように分離されておらず
演技もすべて踊りの中に含まれているのが特徴と言えます。
他の代表作には《ジゼル》があります。
コッペリアの作曲者 レオ・ドリーブ
レオ・ドリーブはフランスの作曲家で、優雅な舞台音楽を多く世に残した人物です。
そしてドリーブはパリ国立高等音楽院でジゼルや海賊の作曲者であるアドルフ・アダンに師事しています。
他の代表曲には”シルヴィア”などがあります。
パリオペラ座専属の作曲家ではなかったそうですが、《海賊》の改訂時に曲を提供したりとフランスのバレエ界で当時重要な人物だったと言えます。
作風はとても優雅でまさにフランスのロマン派。
コッペリアの原作は怖い話「砂男」
コッペリアの原作はE.T.A.ホフマンの「砂男」という小説です。
バレエのコッペリアはコミカルで楽しいストーリーになっていますが元になった話はほぼホラー。
砂男の内容は色々と調べてもいまいち合点がいくあらすじがありませんでしたが、とても分かりやすく書かれているサイトがあったのでご紹介します。
砂男のあらすじ
大学生ナタナエルの心の奥底には「砂男」という恐怖の概念がひそんでいました。
砂男とは、小さな子供がいつまでも寝ないでいるとやって来て、砂を眼に入れて目玉を飛び出させてしまうという伝承上の妖怪。
成長するにつれて普通は忘れてしまうようなものなのですが、
ナタナエルの場合は大嫌いな老弁護士コッペリウスを砂男だと思い込み
そのコッペリウスに折檻された思い出と、
父親がコッペリウスと錬金術の実験中に爆死した事件とが結びつき
「砂男=コッペリウス」は恐怖の象徴として心の奥深くにしみついてしまったのです。
ある日下宿にコッペリウスにそっくりの晴雨計売りのコッポラという男がやって来て、
そのコッポラをコッペリウスだと思い込んだ事からナタナエルは恐怖にとりつかれる事となります。
恐怖と不安は故郷に帰省した後にも影を落とし、
砂男の存在を否定してナタナエルを救おうとする婚約者のクララと仲違いをしてしまい
その事からクララの兄ロータールとあやうく決闘になりかけたほどでした。
さすがに反省したナタナエルは愚かな考えを捨て去ろうと固く決心します。
平和な心を取り戻して大学へ帰ったナタナエルですが
再びやって来た晴雨計売りのコッポラに望遠鏡を売りつけられ
その望遠鏡を通して見たオリンピアという娘に心を奪われます。
オリンピアは物理学の教授スパランツァーニの娘ですが、ぎこちなく硬直しておりほとんど動く事がありません。
しかしコッポラの望遠鏡を通してみると、天女のように美しく、ナタナエルへの愛にあふれているように見えたのでした。
ナタナエルの心からクララの面影は跡形もなく消えてしまいます。
ある日スパランツァーニ教授の家でパーティーが開かれる事になり、これまで人前に出る事がなかったオリンピアがお披露目されることに。
そのぎこちなさに魂がないかまたは白痴ではないかと人々は思いますが
コッポラの望遠鏡に判断力を狂わされたナタナエルはますますオリンピアに夢中になります。
その様子を見たスパランツァーニ教授はいたく満足してオリンピアとの仲を認めたため
ナタナエルは毎日のようにオリンピアを訪ね、自分の意思を表示する事もない彼女が自分を丸ごと受け止めて共感してくれるものと思い込んで、
ついには結婚を申し込むことにします。
しかしナタナエルが指輪を持って訪れると
目玉を作ったコッポラとゼンマイ仕掛け等全体を作ったスパランツァーニ教授が所有権を争ってオリンピアを引っ張り合っていました。
オリンピアは二人が共同で作った自動人形だったのでした。
そしてついにはコッポラが勝ち、オリンピアを担いで持ち逃げしてしまいます。
負けた教授は実験器具の上に倒れて血だらけになり
何とか確保したオリンピアの目玉を茫然自失のナタナエルに投げつけます。
血まみれの目玉が胸に命中した事から狂気は胸の奥深く入り込み、
ナタナエルの理性はズタズタに破壊されてしまいます。
狂ったナタナエルはおかしな事を口走りながらスパランツァーニ教授の首を締め上げて殺そうとしますが
物音を聞きつけた人々に取り押さえられ精神病院に送られます。
故郷に連れ戻されたナタナエルは婚約者クララの献身的な看病に正気を取り戻したかに見えました。
しかしクララと共に市役所の塔に登ってコッポラの望遠鏡を覗き込み
その中にクララの姿を見た時再びナタナエルは発狂。
そしてクララを塔から突き落とそうとします。
危機一髪でクララは駆けつけたロータールに救出されますが
ナタナエルは塔の下の群集の中にコッペリウスの姿を発見してしまいます。
そしてナタナエルは吸い寄せられるように塔から飛び降り頭を粉々に砕かれます。
ナタナエルの死と共にコッペリウスは姿をくらましてしまうのでした。
コッペリアは文学が原作の数少ないバレエ
このように原作はあくまでも文学なので、基本的におとぎ話からつくってきたバレエとは大きく異なります。
この小説からニジンスキーがバレエを作っていたら原作の上をいくほどに狂気に満ちたバレエができていたことだと思いますが、この頃はあくまで”ロマンティックバレエ”時代です。
コッペリアのストーリーでは原作の設定を多く保ちながらホラー要素を消して逆にコミカルに仕上げています。
望遠鏡で毎日覗き見るうちに判断力がなくなって夢中になる、といった狂気感
↓
窓辺で読書している美少女が気になる
のように自然にしているのもうまいです。
一番大きい点は
テーマである”砂男への恐怖”そのものがカットされていること
ですね。
ローラン・プティのコッペリア
ローラン・プティが振り付けたコッペリアは、途中までのストーリーは同じですが
3幕ではコッペリウス博士が祭りに人形を持ってくるものの誰にも取り合ってもらえず、最後に人形コッペリアはバラバラになってしまいコッペリウスは呆然と立ち尽くす。
という終わりです。なんだか原作を思い起こさせる不気味さの中で幕が閉じるわけですね。
詳細はこちら
ローラン・プティのコッペリア ものがたり|ニュース|新国立劇場
コミカルで親しみやすい曲も多いコッペリア
ジゼルやラ・シルフィードがオーケストラの演奏会で取り上げられることは滅多にありませんが、コッペリアは演奏されることもあります。
Bolshoi Ballet- Coppelia: Mazurka
マズルカが一番多いかもしれません。
親しみやすくキャラクター性もある曲が多いので音楽も楽しめる作品ですね。
原作を知ってから改めて見てみると、コミカルな中にも垣間見えるコッペリウスの狂気と悲しみだったりまた違った楽しみ方ができるかもしれません。
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