バレエは世界中で上演されているような名作以外にも、各劇場でオリジナルの作品をもっていることもあります。
筆者が音楽家として働いているブリヤート歌劇場にもこの地方の神話をもとにしたバレエ作品があり、とても愛されています。
ブリヤート劇場とは
ロシアは多くの共和国から成り立っている連邦制で、ブリヤート共和国もそのうちの一つに数えられます。
位置は日本からまっすぐ北、中国とモンゴルを越えたバイカル湖という湖に面しています。
元々はモンゴル系の民族が支配していた土地で、1600年頃にロシアに併合されました。
現在も5:5の割合でブリヤート人とロシア人、タタール人が暮らしている土地です。公用語はロシア語で、基本的なシステムもすべてロシアですが住んでいるのはアジア系の民族。ブリヤート語や食文化、その他も失われることなく残っています。
白人とアジア人が当たり前のように平等に共存している不思議な土地です。
劇場は1939年に創設。
2019年までは岩田守弘さんがバレエの芸術監督でした(現在はニジブノブゴラト劇場芸術監督)
日本人はバレエダンサーで数名、オーケストラにも2名在籍しています。
ロシアの歌劇場に就職しました ブリヤート共和国の”ウランウデ”について
ブリヤート歌劇場オリジナルバレエ「麗しのアンガラ」
ブリヤート歌劇場ではバレエも頻繁に上演されるのですが、その中にこの劇場でしか上演されていないオリジナルの演目があります。
«КРАСАВИЦА АНГАРА»麗しのアンガラ、美女アンガラとも訳せるこのバレエはブリヤートの神話をもとに作られた演目で、1959年に初演されました。
作曲はB.ヤンピロフ Ямпилов。
岩田守弘さんが芸術監督時代、2016年にロシア政府からの大きな補助で1800万ルーブル(2700万円)かけてリニューアルされました。
ブリヤートのアジアンな音階とリズムの音楽
ブリヤートの伝統衣装
など普通のバレエとは全てが違うので大変興味深い作品です。
基本的にはブリヤートでしか上演されていませんが、劇場の夏のツアーの時にはいつもやるそうで、日本から一番近いとウラジオストックへ遠征に行ったときに観ることができますね。
以前モスクワでも公演されたようです。
これはリニューアルした2016年当時の全幕の映像です。
麗しのアンガラのあらすじ
登場人物
バイカル王
アンガラ王女
エニセイ
黒い風
登場人物は全てブリヤートの自然を擬人化したもので
ブリヤートの根源である神の湖
バイカル湖→王様
バイカル湖から唯一流れる河
アンガラ川→王女
アンガラ河からずっと北にある支流
エニセイ川→王子
黒い風は特にモデルはなく、神話にも登場しない創作キャラクターです。
麗しのアンガラのあらすじ
バイカル王は王女アンガラを連れて遠い地エニセイを訪れています。
そこでアンガラ王女とエニセイ王子は出会い恋に落ちます。
アンガラは侍女たちに連れられて再びバイカルへ戻ります。
しかしどうしてもアンガラと結婚したい悪の化身「黒い風」(直訳するとダサい)。
バイカル王にアンガラとの結婚の許しを請いにバイカルへ向かいます。
祈りの儀式を捧げ宮殿に招かれる黒い風。
アンガラに迫りますがアンガラはすでにエニセイのことが好きなのでこれを拒みます。
そこでなんとエニセイに変装して再びせまりますが、
ただ青い帽子をかぶっただけで他は真っ黒
そこで本物のエニセイが乱入
さすがに本物のエニセイを見分けるアンガラ。
ここでエニセイと黒い風がもめて、バイカル王が仲裁にはいりますが
エニセイの方が追い出されます
黒い風はちゃんと儀式をして招いた客人だがエニセイは乱入者ということだそう。
そこで黒い風一味は大喜びしますが
テンションが上がりすぎて宮殿内をめちゃくちゃにしてしまい再び追い出されますw
ここが実にブリヤートらしくて好きです。
そしてアンガラはエニセイに会いにいきます。
そこに再び現れる黒い風。
エニセイと黒い風の戦いになりエニセイが勝利。
王様にも祝福されハッピーエンド!
とても独特な色合いと音楽なのでたまにはこういったバレエを観てみるのもおもしろいかもしれません。
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